日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです! 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
「すごいね!」「さすが!」その言葉、本当に相手のため?
言うことを聞いてくれた子どもに、「いい子ね、えらいわね!」と、満面の笑みで褒める。 期待通りの成果を出した部下に、「さすがだね、君は本当に優秀だ!」と、賞賛の言葉を贈る。 落ち込んでいる友人に、「あなたなら大丈夫、絶対にできるよ!」と、力強く励ます。
これらの言葉は、一見すると、相手を元気づけ、やる気を引き出す、ポジティブな関わりのように見えます。言っている私たち自身も、もちろん100%の善意から発しています。
しかし、アドラー心理学は、こうした「評価の言葉」に、注意を促します。 なぜなら、その善意の言葉が、実は相手の「自立する力」を、静かに、しかし確実に奪っていく可能性があるからです。
その言葉は“アメ”か、それとも“水”か
ここで、「おだてる(褒める)」ことと、「勇気づけ」の決定的な違いを、考えてみましょう。
「おだてる(褒める)」とは、相手に与える“アメ”のようなものです。 それは、「〇〇ができたから、えらい」「結果を出したから、すごい」という、条件付きの評価です。アメは甘く、一時的に相手を高揚させ、行動を促すかもしれません。しかし、その効果は長続きしません。 やがて相手は、「次もアメがもらえるから、やる」という依存状態に陥ります。「アメをくれる人」の顔色をうかがうようになり、自分の意思で行動しなくなる。そして、アメがもらえなければ、やる気を失ってしまうのです。これは、相手をコントロールするための「縦の関係」のコミュニケーションです。
一方で、「勇気づけ」とは、相手の生命力に注がれる“水”のようなものです。 それは、評価ではありません。「あなたが、どんな状態であっても、私はあなたの価値を信じている」という、無条件の信頼の表明です。水は、植物が自らの力で根を張り、太陽に向かって伸びていくのを、ただ援助するだけです。 勇気づけは、相手の内側から、「自分には、困難を乗り越える力がある」という、本当の自信が湧き上がってくるのを助けます。これは、お互いを尊重する「横の関係」のコミュニケーションです。
「勇気づけ」の具体的な“言葉”と“態度”
では、具体的にどうすれば、アメではなく、水を注ぐ「勇気づけ」ができるのでしょうか。
1.評価ではなく、「感謝」を伝える 「すごいね!」ではなく、「ありがとう、あなたが手伝ってくれて、本当に助かったよ」と伝えてみましょう。相手の行為が、自分(共同体)にとっていかに有益であったかを伝える。この「貢献感」こそが、人の心に最も強く、健全な動機を与えるのです。
2.結果ではなく、「プロセス」に注目する 「100点を取って、えらいね!」ではなく、「目標に向かって、毎日コツコツ努力していたね。その姿勢が、私は素晴らしいと思う」と伝えます。結果は、運にも左右されます。しかし、そこに至るまでの努力や工夫というプロセスは、本人の課題であり、尊敬の対象です。
3.失敗した時にこそ、真価が問われる おだてるのは、相手が成功した時にしかできません。しかし、勇気づけは、相手が失敗し、最も勇気をくじかれている時にこそ、必要とされます。 「なんで失敗したんだ!」(叱責)でもなく、「大丈夫、次があるさ!」(無責任な慰め)でもありません。 「残念だったね。でも、勇気を出して挑戦した君を、私は心から尊敬するよ。この経験から、何を学べるか、よかったら一緒に考えてみないかい?」 失敗を非難せず、共に引き受け、未来への学びに変えようとする仲間になる。これこそが、最高の勇気づけです。
言葉を超えた、最強の勇気づけ
究極的には、勇気づけは言葉だけではありません。 最もパワフルな勇気づけは、「私は、あなたの力を信じている」という、無条件の信頼を、態度で示すことです。 失敗を恐れずに、課題を任せてみる。本人が助けを求めるまで、黙って見守る。そして、ただ「あなたが、そこにいてくれるだけで嬉しい」と、存在そのものへの喜びを伝えること。
おだてる言葉は、相手を「評価を待つ、受け身の存在」にします。 勇気づけの言葉と態度は、相手を「自らの力で課題に立ち向かう、主体的な仲間」にします。
あなたの言葉は、相手の自立を奪う“アメ”になっていますか? それとも、相手の生きる力を育む“水”になっていますか?
長年、「褒めて伸ばす」のが良いと信じてきた方にとって、その関わり方を変えるのは、戸惑いがあるかもしれません。つい、子どもや部下を自分の思い通りにコントロールしようとしてしまう、ということもあるでしょう。
カウンセリングでは、まずあなた自身が、なぜ「縦の関係」のコミュニケーションをしてしまうのか、そのライフスタイルを探求します。そして、おだてるのではなく、心から相手を信頼し、勇気づけるための具体的な関わり方を、一緒に練習していきましょう。
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お会いできるのを楽しみにしています。
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