日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです！ 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
なぜアドラーは「原因」ではなく「目的」を問うのか？そのシンプルな理由。
「なぜ私は、人前だと緊張してしまうんだろう？」 「どうして、あの人のささいな一言がいつまでも忘れられないんだろう？」
私たちは何か問題にぶつかると、つい「なぜ？」と自問し、過去にその原因を探しがちですよね。その「なぜ？」という問いは、自分を理解する上で大切な一歩です。
しかし、アドラー心理学はそこから一歩踏み込んで、まったく違う角度から、こう問いかけます。 「何のために、緊張するのだろう？」 「その一言を忘れずにいる目的は、何だろう？」と。
「目的」なんて言われても、ピンとこないかもしれません。ですが、アドラーが「原因」ではなく「目的」にこだわる理由は、驚くほどシンプルで、私たちの毎日を軽やかにするための、とても力強いヒントに満ちているのです。
「原因さがし」が私たちを過去に縛りつける
まず、私たちが普段慣れ親しんでいる「原因さがし」について考えてみましょう。
例えば、「人前で緊張してしまう」という悩みがあったとします。原因を探すと、こんな答えが見つかるかもしれません。 「過去に、大勢の前で発表して大失敗した経験があるから（原因）」 なるほど、それなら緊張するのも仕方がない、と思えます。
しかし、その先に何が待っているでしょうか。 「過去に失敗したから、今、緊張するのは仕方がない」、「だから、うまく話せなくても当然だ」
このように、原因が見つかると一瞬スッキリしますが、同時に「だから、仕方がない」という諦めに行き着いてしまいます。過去は変えられないため、原因をいくら探しても、今の自分を行動しないための「言い訳」にしてしまう危険性があるのです。
アドラーは、このような原因論に基づくアプローチを、心を慰めることはできても、人を前に進ませる「勇気」を与えることは難しい、と考えました。
「目的さがし」が私たちを未来へ解き放つ
ここで、視点を180度ひっくり返してみましょう。 同じ「人前で緊張してしまう」という悩みを、「目的」を探す視点で見つめ直します。
「何のために、緊張という状態を作り出しているのだろう？」 もしかしたら、そこにはこんな無意識の目的が隠れているかもしれません。
- 「『緊張してうまく話せない』という状態になることで、『もし発表がうまくいかなくても、それは能力不足ではなく緊張のせいだ』と言い訳する目的」
- 「『緊張するから』という理由を使って、そもそも発表するという課題から逃げる目的」
- 「注目を浴びて失敗し、自分の評価が下がるのを避ける目的」
いかがでしょうか。 こう考えると、「緊張」という状態は、過去の出来事によって引き起こされているどうしようもない「症状」ではなく、現在の自分が何らかの目的を達成するために、無意識に“使っている”便利な「道具」として見えてきませんか。
そのシンプルな理由とは？
さて、いよいよ本題です。アドラーがこれほどまでに「目的」を問う、そのシンプルな理由。それは…
「未来は、変えられるから」です。
もう一度、比べてみましょう。
原因は「過去」にあります。過去は、誰にも変えることができません。 だから、原因をいくら探しても、私たちは過去の出来事の奴隷のままで、未来を変えるための具体的な行動にはつながりにくいのです。
目的は「未来」にあります。未来は、私たちの手の中にあります。 もし、今の行動が未来の「目的」を達成するためであるならば、その「目的」を“今、ここ”で選び直すことで、未来の行動も変えていくことができるのです。
例えば、「評価が下がるのを避ける」という目的の代わりに、「たとえ失敗しても、この経験を次に活かすための学びとしよう」という新しい目的に切り替えることができたなら、「緊張」という道具を頑なに使い続ける必要性も、少しずつ減っていくでしょう。
アドラーが「目的」を問うのは、決してあなたを問い詰めるためではありません。 それは、「あなたの人生の主導権は、過去の出来事でも、他の誰かでもなく、いつでも“今”のあなた自身の手の中にあるんですよ」という、私たちの可能性への最大限の信頼と「勇気づけ」の表れなのです。
あなたの人生の運転席に座ろう
「なぜ？」と過去を振り返り、自分を知る旅も時には必要です。しかし、そこに留まり続けていては、見える景色はずっと変わりません。
アドラー心理学は、私たちにこう問いかけます。 「これから、どこへ行きたい？」
あなたの行動の一つ一つには、あなた自身が幸せになるための、健気な「目的」が隠れています。それに気づき、より建設的な目的に選び直していくこと。 それが、他人のせいや過去のせいにせず、自分の人生の運転席に、あなた自身がしっかりと座るための、最初の一歩になるのです。
もし、あなたがご自身の無意識の「目的」について深く知りたいと感じたり、新しい目的へと踏み出すための勇気が必要だと感じたりした時は、ぜひ一度お話ししに来てください。あなたの未来へのナビゲーションを、一緒に始めるお手伝いができれば幸いです。
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お会いできるのを楽しみにしています。
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