日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです! 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
「嫌われる勇気、持っちゃいました!」という、危うい自由
「嫌われる勇気を持ったから」と言って、相手の気持ちを全く考えずに、思ったことをストレートにぶつけてしまう。 「これは私の課題じゃないので」と、困っている同僚を一切手伝わず、自分の仕事だけを終わらせて、定時で帰る。 「他者の評価なんて気にしないのが、本当の自由だ」と宣言し、周りへの配慮を欠いた言動で、場の空気を凍らせてしまう。
ベストセラーとなった『嫌われる勇気』を読んで、アドラー心理学の考え方に触れ、これまで他人に気を遣いすぎていた自分から、解放されたように感じている方も多いかもしれません。 それは、素晴らしい一歩です。 しかし、その「勇気」の使い道を、少しだけ勘違いしてしまうと、本来目指していたはずの「幸せ」とは、全く逆の方向へと進んでしまう、危険な罠が待っているのです。
その勇気、本当に“アドラー的”ですか?
なぜ、このような「勘違い」が生まれるのでしょうか。 それは、アドラー心理学のいくつかの重要な概念が、その一部分だけを、自分に都合よく切り取られて解釈されてしまうからです。
- 勘違い1:「課題の分離」は、“自己中心主義”の許可証ではない 「課題の分離」は、相手の課題に土足で踏み込まない、ということ。しかし、それは「相手の課題だから、自分は一切関知しない」という冷たい突き放しを意味しません。言ってみれば、選択の尊重だと思います。相手から助けを求められた時に、協力する準備があること。この、仲間への連帯感がセットになって、初めて健全に機能するのです。
- 勘違い2:「承認欲求の否定」は、“他者無視”の正当化ではない 他者からの承認を求めるために、自分の人生を生きるのをやめる、ということ。しかし、それは「他者の気持ちや、社会のルールを、一切無視していい」ということではありません。私たちは、共同体の一員として、他者を尊重し、協力する姿勢が、大前提として必要です。
- 勘違い3:「嫌われる勇気」は、“人に嫌われる努力をする”ことではない これが最大の勘違いです。「嫌われる勇気」とは、他者から嫌われることを恐れずに、自分の信じる貢献の道を進む、ということ。決して、わざと人に嫌われるような、喧嘩腰の、挑発的な態度を取ることではないのです。
アドラー心理学の“心臓部” – 「共同体感覚」を忘れていませんか?
では、これらの勘違いを正すための、アドラー心理学の最も重要な“心臓部”とは何でしょうか。 それが、「共同体感覚」です。
「課題の分離」も「嫌われる勇気」も、すべてはこの「共同体感覚」というゴールにたどり着くための“道具”や“手段”に過ぎません。
共同体感覚とは、他者を「敵」や「競争相手」ではなく、対等な「仲間」と見なし、その仲間たちの中で、「自分はここにいていいんだ」という所属感と、「自分は、この仲間たちの役に立っている」という貢献感を感じられることです。
「嫌われる勇気」を勘違いしている人は、この「他者は仲間である」という大前提を忘れ、他者を「自分を縛る邪魔な存在」や「自分の正しさを証明するための敵」と見なしてしまっています。その先に待っているのは、本当の自由ではなく、誰からも信頼されない、冷たい「孤立」だけなのです。
本当の“自由”とは、仲間の中でこそ感じられる
では、どうすれば、勘違いの罠から抜け出し、本当の意味で自由な対人関係を築けるのでしょうか。
ステップ1:「課題の分離」の後に、「協力」を付け加える 「これはあなたの課題だ」と心の中で線を引く。しかし、そこで終わりではありません。続けて、「でも、もし助けが必要なら、いつでも声をかけてほしい。私にできることがあれば、喜んで協力するよ」と、仲間としての連帯のメッセージを、心の中(あるいは言葉)で付け加えましょう。
ステップ2:「嫌われる可能性」は引き受けるが、「信頼する努力」はやめない 自分の信じる貢献の道を進んだ結果、もし誰かに嫌われたとしても、それは仕方がない。その課題は引き受けます。しかし、だからといって、最初から相手を敵と見なすのではなく、まずは相手を「仲間」として信頼することから始める。この、自分から信頼するという勇気が、関係を変えます。
ステップ3:「貢献」こそが、最高の自由をもたらすと知る 本当の自由とは、好き勝手に振る舞うことではありません。 それは、共同体の一員として、自らの意思で、他者に貢献することです。誰かに強制されるのではなく、「私が、この仲間たちの役に立ちたいのだ」と、主体的に関わること。 その貢献感の中にこそ、他者の評価に左右されない、揺るぎない幸福と、本当の自由があるのです。
「嫌われる勇気」とは、孤独になるための勇気ではありません。 それは、共同体の仲間と、より深く、温かく、そして対等につながるための、勇気なのです。
「嫌われる勇気」を読んで、実践してみたけれど、なぜか人間関係がうまくいかず、かえって孤立してしまった。自分のやっていることが、本当のアドラー心理学の教えに沿っているのか、わからなくなってしまった。そんな風に感じていらっしゃるかもしれません。
カウンセリングでは、アドラー心理学の概念を、あなたの具体的な生活の中で、どうバランスよく使っていけばいいのかを、安全な空間で一緒に学ぶことができます。自己中心的な自由ではなく、共同体感覚に基づいた、本当の意味での幸福と自由を手に入れるためのサポートをさせていただきます。
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お会いできるのを楽しみにしています。
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