日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです！ 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
会話を“殺す”一言、「でも…」
友人が楽しそうに、今度の旅行の計画を話している。あなたは、つい、こう口を挟んでしまう。「でも、そこって今の時期、すごく混んでいるらしいよ」 部下が、新しいアイデアを目を輝かせながら提案してきた。あなたは、思わずこう返してしまう。「でも、そのやり方だと、予算的に厳しいんじゃないか？」 パートナーが「こうしたいな」と言ったことに対し、間髪入れずに、「でも、あなたはいつもそう言うけど、結局やらないじゃない」と、反論してしまう。
この、「でも」「だって」「そうじゃなくて」という、逆接の言葉。 言っている本人としては、良かれと思って「現実的な視点」や「別の可能性」を提示しているつもりかもしれません。 しかし、この一言が、会話の流れをぴたりと止め、相手のやる気を削ぎ、場の空気を、一瞬にして冷たく凍りつかせてしまう。 相手にとっては、自分の意見や気持ちを、真正面から否定されたようにしか感じられないのです。
なぜ、私たちは「でも」と言ってしまうのか？
なぜ、私たちはこれほどまでに、相手を否定する言葉から、会話を始めてしまうのでしょうか。 それは、私たちが無意識のうちに、会話を「協力の場」ではなく、「勝ち負けを決める“議論”の場」だと捉えているからです。
「でも」という言葉の裏には、「あなたの意見には欠点がある。それに気づいている私の方が、あなたより賢く、優れている」という、無意識の優越性の誇示、つまり「権力争い」の目的が隠れていることがあります。 「でも」という言葉は、相手に対して、「私は、あなたと戦う準備がありますよ」という、ファイティングポーズの表明なのです。
関係を“生かす”一言、「なるほど、そして…」
この、不毛な対立のゲームから降りるための、一つの魔法の言葉があります。 それは、「でも」を、「なるほど、そして」に言い換えてみる、という、ささやかな実験です。 たったこれだけのことで、コミュニケーションの質は、劇的に変わります。
「なるほど、そして」の構造
- 「なるほど」（あるいは「そうだね」「面白いね」） まず、相手の意見を、良い悪いの評価をせずに、一度、完全に受け止めます。これは、「あなたの意見に100%同意します」という意味ではありません。「あなたが、そう考えているのですね」と、相手の存在そのものを認める、尊敬の表明です。
- 「そして」 相手の意見を否定するのではなく、その意見を土台として、自分の意見を“付け加える”のです。これにより、会話は「対立」ではなく、より豊かで、創造的な「協力」の方向へと進んでいきます。
「でも」が、断絶と対立の言葉なら、「なるほど、そして」は、接続と協力の言葉。 これは、相手を打ち負かす「縦の関係」から、お互いを尊重し合う「横の関係」への、意識的なシフトなのです。
今日から始める、「なるほど、そして」の会話実験
ぜひ、今日から、この「実験」を試してみてください。
- ケース１：会議の場で
- （旧）「でも、その案には、〇〇というリスクがあります」
- （新）「なるほど、その視点は素晴らしいですね。そして、〇〇というリスクについては、どのようにヘッジできるか、皆で考えてみませんか？」
- ケース２：パートナーとの会話で
- （旧）「旅行もいいけど、でも、お金がないじゃない」
- （新）「いいね、旅行に行きたいね！そして、そのために、どうやって予算を作ろうか、一緒に計画を立てるのも楽しそうだね」
この「実験」を続けていくと、相手の表情が和らぎ、会話が弾み、人間関係が驚くほどスムーズになることに、あなた自身が一番、驚くはずです。 これは、単なる言葉のテクニックではありません。 相手を「仲間」として信頼し、共に、より良い答えを創り出していこうとする、あなたの生きる姿勢そのものが、言葉となって現れるのです。
長年の癖で、つい「でも」と言ってしまう。わかっていても、相手を論破したいという衝動が、なかなか抑えられない。そんなこともあるでしょう。
カウンセリングでは、あなたがなぜ「権力争い」のコミュニケーションを選んでしまうのか、その背景にあるライフスタイルを安全な空間で一緒に探求します。そして、対立ではなく、協力をベースにした「横の関係」のコミュニケーションを、具体的な練習を通して身につけるお手伝いをさせていただきます。
初回カウンセリング（オンライン）はこちらからお申し込みいただけます。
お会いできるのを楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 LINE公式アカウントでは、今後も皆さんの日々の悩みに役立つヒントを配信していきます。ぜひ、友だち追加をしてくださいね。
コメント