日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです! 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
「答え」を教えても、人は変われない
言うことを聞かない子どもに、何度も、何が正しいのかを懇切丁寧に“教えた”のに、一向に行動が改まらない。 仕事がなかなか覚えられない部下に、手取り足取り、効率的なやり方を“教えた”のに、いつまで経っても、自分で考えて動こうとしない。 悩んでいる友人に、的確なアドバイスを“教えてあげた”のに、全く感謝されず、むしろ煙たがられてしまった。
私たちは、良かれと思って、相手に「答え」や「正解」を教えようとします。しかし、なぜか相手は、私たちの期待通りには変わってくれない。それどころか、反発したり、依存的になったり、心を閉ざしてしまったりする。 この、教育や指導の現場で、多くの人が経験する「教えることの限界」。その理由は、一体どこにあるのでしょうか。
「教える」という行為に潜む、“縦の関係”
アドラー心理学は、その理由を、「教える」という行為が、その構造上、必然的に「縦の関係」を生み出してしまうからだと説明します。
- 教える側 = 知っている者、能力のある者、上の立場
- 教わる側 = 知らない者、能力のない者、下の立場
この「縦の関係」の中で、教わる側は、無意識のうちに「自分は、この人よりも劣った存在なのだ」と感じさせられます。どれほど丁寧な言葉で教えられたとしても、その関わり方自体が、相手の勇気を静かに、しかし確実にくじいていくのです。 その結果、相手は「あなたに言われたくない」と反発心を抱くか、あるいは、「この人に従っていれば間違いない」と、自分で考えることをやめ、あなたに依存するようになってしまうのです。
「対話」が育む、自立への“勇気”
では、アドラー心理学が目指す、本当の意味で相手の成長を助ける関わり方とは、どのようなものなのでしょうか。 それが、「対話」です。
「対話」とは、答えを一方的に与えることではありません。 それは、相手の中にあるはずの“答え”を、相手自身が見つけ出すのを、辛抱強く、そして深い敬意をもって援助するプロセスのことです。
「対話」は、「横の関係」を大前提としています。 そこには、「私は、あなたと同じ、不完全な人間です。私にも、あなたの問題の正解はわかりません。しかし、あなたには、あなた自身の力で答えを見つけ出す能力があると、私は固く信じています。だから、一緒に考えてみよう」という、相手の自己決定性への、絶対的な信頼があります。
この関わり方は、相手に「自分は、一人の対等な人間として尊重されている」という安心感と、「自分には力があるのだ」という自信を与えます。これこそが、アドラー心理学の言う、最高の「勇気づけ」なのです。 人は、誰かに与えられた「正解」によってではなく、自分で見つけ出した「納得解」によってのみ、本当の意味で行動を変え、自立へと向かって歩み始めることができるのです。
「教えたい」衝動を抑え、「問いかける」勇気を持つ
では、具体的にどうすれば、一方的な「教える」から、共に考える「対話」へと、私たちの関わり方をシフトできるのでしょうか。
ステップ1:まず、黙る。そして、聴く。 相手が何か課題に直面している時、すぐに「答えはこうだよ」と言いたくなる衝動を、ぐっとこらえましょう。まずは、相手が何を考え、何を感じているのかを、最後まで、評価せずに聴くことに徹します。
ステップ2:「なぜ?」ではなく、「どうすれば?」と問う。 「なぜ、できないんだ?(原因追及・詰問)」ではなく、「どうすれば、できるようになると思う?」「そのために、まず何から始められそうかな?」と、未来志向の、建設的な問いを投げかけます。
ステップ3:自分の意見は、「提案」として伝える。 どうしても自分の考えを伝えたくなった時は、「こうすべきだ」という命令ではなく、「私なら、こう考えるけど、あなたはどう思う?」「一つの選択肢として、こういう方法もあるかもしれないね」と、あくまで一つの「情報」や「提案」として、対等な立場で手渡します。
ステップ4:相手の「決断」を、信頼して待つ。 最終的に、どんな答えを出し、どんな行動を選択するかは、相手の課題です。その決断を、たとえ自分の考えと違っていたとしても、尊重し、信頼して見守ること。
答えを「教える」のは、簡単で、手っ取り早く、教える側の優越感を満たしてくれるかもしれません。 しかし、答えが出るまで「対話」し、相手を「待つ」ことは、時間もかかり、忍耐も必要です。 しかし、その辛抱強い関わりこそが、相手の自立という、かけがえのない宝物を育む、唯一の道なのです。
頭ではわかっていても、つい子どもや部下に、答えを教え、指示してしまう。対話の仕方がわからず、結局、自分が我慢して終わってしまう。そんな風に悩んでしまうこともあるでしょう。
カウンセリングは、アドラー心理学が目指す「対話」そのものです。あなたがなぜ「教えたい」という衝動に駆られるのか、そのライフスタイルを探求し、相手の力を信じて「待つ」ことができるようになるための、具体的な練習の場を提供します。
初回カウンセリング(オンライン)はこちらからお申し込みいただけます。

お会いできるのを楽しみにしています。
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