日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです! 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
「もったいない」という名の、見えない“鞭”
せっかくの休日なのに、特に何もせず、一日を終えてしまった時の、あの、ひどい罪悪感。 ソファでぼーっと過ごしていると、「もっと有意義な時間の使い方があるはずだ」「何て自分は、怠惰なんだろう」と、自分を責める声が頭の中で響き渡る。 スケジュール帳に空白があると、なんだか不安になる。
私たちは、いつからこんなにも、「何かをしていなければならない」という、見えない“鞭”に追われるようになってしまったのでしょうか。 まるで、「何もしない」ことが「悪」であるかのように感じてしまう。この、現代社会に蔓延する「生産性の呪い」が、私たちから、本当の意味での休息と、心の平穏を奪っているのかもしれません。
なぜ、私たちは「何もしない」のが怖いのか?
なぜ、私たちはこれほどまでに「何もしない」ことを恐れるのでしょうか。 アドラー心理学の視点から見ると、その背景には、いくつかの心理的な理由があります。
一つは、「doing(行為)」でしか、自分の価値を測れない、という思い込みです。 「何かを達成すること」「誰かの役に立つこと」といった、目に見える「行為」によってしか、自分の価値を実感できない。だから、「何もしない自分」は、まるで「価値のない、無意味な自分」のように感じられてしまい、その恐怖に耐えられないのです。
そして、もう一つ。 「立ち止まる」ことで、向き合いたくない問題が見えてしまう、という恐怖です。 常に忙しく動き回っている間は、自分の心の中にある、本当の課題(例えば、夫婦関係の問題、将来への不安、満たされない心)から目をそらすことができます。「忙しい」という状態は、人生の困難な課題から逃避するための、絶好の言い訳になるのです。
「being(存在)」そのものに価値がある、という視点
この、苦しい呪縛から抜け出すために、アドラー心理学は、最も深く、そして温かい視点を、私たちにプレゼントしてくれます。 それは、人間の価値は、「何をしたか(doing)」だけで決まるものではない、という考え方です。
究極的には、「ただ、そこにいる(being)」こと、そのこと自体に、かけがえのない価値があるのです。
生まれたばかりの赤ちゃんを、想像してみてください。 赤ちゃんは、生産的な行為は何一つしていません。しかし、その「存在」そのものが、周りの人々を笑顔にし、勇気づけ、幸せな気持ちにさせてくれます。 あなたもまた、同じです。 何かを成し遂げていなくても、誰かの役に立っていなくても、ただ、あなたとして、ここに存在しているだけで、すでに誰かにとってのかけがえのない一員であり、そのままで、十分に価値があるのです。
「何もしない」を、積極的に“する”ためのヒント
では、具体的にどうすれば、罪悪感なく「何もしない」一日を、自分にプレゼントできるのでしょうか。
ステップ1:「何もしない日」を、あえてスケジュールに入れる 「予定がなかったから、何もしなかった」のではなく、「今日は『何もしない』という、私にとって最も重要な予定を入れたのだ」と、意識的に決断しましょう。その日を、自分を慈しみ、回復させるための「セルフケア・デー」と名付けて、手帳に書き込むのです。
ステップ2:「目的のある、何もしない」を実践する ただダラダラと、罪悪感を抱きながらスマホを見るのはやめましょう。目的を持って、「何もしない」をデザインするのです。 例えば、「思考のデトックス」。スマホやPCから離れ、ただ窓の外の雲が流れていくのを眺める。頭に浮かんでくる様々な思考を、良い悪いで判断せず、ただ観察する。 あるいは、「五感を解放する」。お気に入りの音楽を聴く、好きなアロマを焚く、肌触りの良い毛布にくるまる。思考を止め、ただ「感じる」ことに、すべての意識を集中させてみましょう。
ステップ3:「何もしなかった自分」を、盛大に褒める 一日の終わりに、「ああ、今日も何も生産的なことができなかった…」と自分を責めるのは、もうやめです。 代わりに、こう自分を勇気づけてあげてください。 「よくやった、私!今日は、自分を十分に休ませるという、一番大切な仕事を、見事にやり遂げたじゃないか!」と。
「何もしない」勇気とは、自分を「行為」のレベルではなく「存在」のレベルで信頼する、最高の自己受容の実践です。 そして、その深く、満たされた休息の中からこそ、明日への新しい活力と、創造的なエネルギーが、本当に湧き出てくるのです。
「何もしない」ことに、どうしても強い罪悪感や焦りを感じてしまう。立ち止まると、見たくない問題と向き合わなければならず、かえって辛くなる。そんな方もいらっしゃるかもしれません。
カウンセリングでは、あなたがなぜ「何かをしていなければならない」と自分を追い立ててしまうのか、そのライフスタイルを安全な空間で一緒に探求します。そして、「行為(doing)」の呪縛から解放され、ご自身の「存在(being)」そのものに価値を見出す、本当の意味での心の安らぎを取り戻すお手伝いをさせていただきます。
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お会いできるのを楽しみにしています。
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