誰かに話すほどの悩みじゃない。そう思って、今日も一人で抱え込む

日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです! 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。

心のドアに、自分で鍵をかけていませんか?

職場の人間関係で、ちょっとモヤモヤすることがあった。でも、誰かに愚痴を言って、時間を奪うほどのことじゃないか…。 将来への漠然とした不安が、夜になると押し寄せてくる。でも、みんな同じように不安を抱えて生きているんだから、わざわざ口に出すことでもない。 理由もなく、心が晴れない日が続く。でも、病気というわけでもないし、心配をかけるのも悪いし…。

「誰かに話すほどの悩みじゃない」 私たちは、心に浮かんだ小さなトゲや、どんよりとした霧を、この便利な言葉で、見ないふりをしてしまいます。 そして、自分の心のドアに、内側からそっと鍵をかけてしまう。 その結果、一つひとつは些細だったはずの悩みが、いつの間にか心の部屋全体を占領し、重たくて暗い、息苦しい空間を作り出してしまうのです。

なぜ、あなたは「話せない」のでしょうか?

その、「話すほどの悩みじゃない」という一言の裏側には、いくつかの心理的なブレーキが隠されています。

ブレーキ1:「完璧な自分でなければならない」という思い込み 「悩みを抱えている自分」=「不完全で、弱い自分」と捉え、そんな自分を他人に見せることを「恥」だと感じてしまう。「社会人なら、これくらいのことで悩むべきではない」という、完璧主義の呪縛です。

ブレーキ2:「相手に迷惑をかけてはいけない」という過剰な配慮 「相手も忙しいだろうから、自分のくだらない話で、時間を奪うのは申し訳ない」と考えてしまう。これは一見、相手を思いやる優しさに見えますが、実は「自分の悩みには、相手の貴重な時間を費やしてもらうほどの価値はない」という、自己評価の低さの表れでもあるのです。

ブレーキ3:「どうせ、わかってもらえない」という諦め 過去に、勇気を出して悩みを話したのに、真剣に聞いてもらえなかったり、「そんなことで悩むなんて」と軽んじられたりした経験から、「話しても無駄だ」と、他者への不信感を抱いてしまっているのかもしれません。

あなたの“小さな悩み”は、誰かの“貢献”のチャンスです

ここで、アドラー心理学からの、全く新しい視点を提案します。 それは、「悩みを打ち明ける」という行為は、相手から時間やエネルギーを“奪う”行為ではなく、相手に素晴らしいものを“与える”行為である、という考え方です。

あなたが、誰かに与えることができる、素晴らしいもの。それは「貢献感」です。

人は、「自分は、誰かの役に立っている」と感じられた時に、最も深い喜びを感じ、自分に価値があると思える生き物です。 あなたが勇気を出して、「実は、こんなことでモヤモヤしていて…」と打ち明けた時、相手は心の中でこう感じるかもしれません。 「この人は、私を信頼して、大切な話をしてくれたんだな」 「私の存在が、この人の心を少しでも軽くする、役に立てたかもしれない」

その感覚は、相手を深く勇気づけ、二人の間に本物の信頼関係(横の関係)を築くための、最高のきっかけになるのです。 あなたが「迷惑かも…」と黙っていることは、実は、あなたのことを大切に思っている人が、あなたに貢献する、という貴重な機会を、奪ってしまっていることにもなるのです。

心のドアを、ほんの少しだけ開けてみる練習

そうは言っても、いきなり重い話を切り出すのは、勇気がいるでしょう。 だから、ほんの少しだけ、心のドアを開けてみる練習から始めてみませんか。

ステップ1:「悩み」ではなく、「事実」として話してみる 「すごく悩んでいるんだけど…」と切り出すのが重たいなら、「実は、最近、職場でこんなことがあってさ…」と、ただの事実報告の形で、客観的に話してみるのです。

ステップ2:「相談」ではなく、「意見を聞かせて?」と頼んでみる 「相談に乗ってほしい」だと、相手に重荷を背負わせるように感じるなら、「この件について、〇〇さんはどう思うか、ちょっと意見を聞かせてもらえないかな?」と、軽い問いかけの形にしてみましょう。

ステップ3:プロを頼る、という賢明な選択肢を持つ 身近な人に話すのが、どうしても難しい。そんな時は、話を聴くプロであるカウンセラーを頼る、という選択肢があることを、どうか忘れないでください。それは、自分の心と真剣に向き合うための、最も賢明で、勇気ある自己投資です。

「誰かに話すほどの悩みじゃない」 この言葉は、あなたを孤独にする、不自由な呪文です。 代わりに、こう唱えてみませんか。

「この話を、誰かと分かち合ってみよう」

それは、あなたを仲間との繋がりの中へと導く、勇気の呪文です。 あなたの悩みは、決して些細なことなどではありません。それは、あなたがより良く生きたいと願っている、何よりの証拠なのですから。


それでも、「自分の悩みを言葉にすること自体が、とても難しい」「『こんなことでカウンセリングなんて…』と、どうしてもためらってしまう」。そのお気持ち、よくわかります。

カウンセリングは、どんなに「些細だ」とあなたが思っている悩みでも、安心して話せる場所です。むしろ、そうした小さなモヤモヤの中にこそ、あなたのライフスタイルを解き明かす、大切なヒントが隠されています。一人で抱え込むのをやめ、誰かと「協力」して自分の課題に取り組む、という新しい経験を、してみませんか。


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