日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです！ 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
「ありのままでいい」という、心地よくて、危険な言葉
「ありのままの自分を、愛そう」 最近、よく耳にする、とても優しくて、心が救われるような言葉です。 でも、心のどこかで、こう思いませんか？
「ありのままの自分って、一体、どの自分のこと？」 「怠惰で、意地悪で、わがままなこの自分も、そのままで本当にいいのだろうか？」 「ありのままでいたら、周りから受け入れられず、孤立してしまうだけじゃないだろうか…」
この「ありのまま」という言葉は、私たちを癒してくれる魔法の言葉であると同時に、その意味を勘違いしてしまうと、単なる「わがまま」や「自己中心的な振る舞い」を正当化する、危険な免罪符にもなりえてしまうのです。
アドラー心理学が暴く、「ありのままの自分」の“正体”
では、アドラー心理学は、「ありのままの自分」を、どのように捉えるのでしょうか。 まず、知っておかなければならないのは、私たちが「これが、ありのままの自分だ」と思っている性格や思考のパターンは、生まれつき決まったものではなく、あなたがこれまでの人生で選び取ってきた「ライフスタイル」に過ぎない、ということです。
その上で、「ありのまま」という言葉が、二つの全く異なる意味で使われている、ということを理解する必要があります。
- 勘違いされた「ありのまま」 これは、自分の欲望や感情に、何のフィルターもかけずに、そのまま行動に移すことです。「これが私だから」と言って、相手の気持ちを考えずに発言したり、気分が乗らないからと、やるべきことを放棄したりする。これは、共同体から孤立していく、未熟な生き方です。
- アドラー心理学が目指す「ありのまま」 これは、自分の不完全さ（できないこと、欠点、短所）も含めて、ありのままの自分を、まずはスタート地点として認めること（自己受容）です。そして、その不完全な自分から出発して、他者と協力し、共同体に貢献していくという、未来志向の生き方です。
「ありのままでいる」のではなく、「ありのままで、始める」勇気
この違いこそが、核心です。 アドラー心理学が本当に言いたいのは、「ありのままの自分で、いなさい（そして、何もしなくていい）」ということではありません。 本当に伝えたいメッセージは、こうです。
「不完全で、欠点だらけの、ありのままのあなたで、全く構わない。その場所から、今日、新しい一歩を“始めて”みよう」
これは、行動への、力強い「勇気づけ」なのです。 100点満点の完璧な自分を目指すのではなく、「今の自分は60点かもしれない。でも、そんな自分にOKを出して、ここからスタートしよう」と決意すること。 変えられない過去や気質は、そのまま受け入れる。その上で、「変えられるもの」、つまり、「これからの行動」に、意識を集中させる勇気。 これを、アドラー心理学では「自己受容」と呼びます。
「ありのままでいる」ことは、時に停滞を意味します。 しかし、「ありのままで始める」ことは、成長への、輝かしい第一歩を意味するのです。
本当の“自分らしさ”は、仲間の中で見つかる
では、その一歩は、どこへ向かえばいいのでしょうか。 自分の内側ばかりを、いくら探求しても、「本当の自分」は見つからない、とアドラー心理学は考えます。 本当の自分らしさは、他者との関わりの中でしか、見出すことはできないのです。
ステップ１：まず、他者に関心を持つ 「自分らしさとは何か？」と内側に向かうのをやめ、「目の前のこの人は、今、何に困っているだろう？」「自分は、この仲間たちのために、何ができるだろうか？」と、関心のベクトルを、外側に向けてみましょう。
ステップ２：小さな貢献を、試してみる 誰かの役に立つ、という具体的な行動を通して、「自分は、共同体の一員だ」という所属感と、「自分は、役に立てる存在だ」という貢献感を、育んでいきましょう。
ステップ３：仲間からのフィードバック（勇気づけ）を受け取る あなたの貢献に対して、仲間は「ありがとう」という、温かい言葉を返してくれます。その時、あなたは「他者との関係の中で、役に立っている自分」こそが、最も自分らしく、輝いているのだと、気づくはずです。
本当の意味で「ありのままの自分でいる」とは、孤立して、わがままに振る舞うことではありません。 それは、共同体という仲間の中で、不完全な自分として、他者と協力し、貢献している、その生き生きとした状態のことなのです。
「ありのまま」という言葉の意味が、わからなくなってしまった。自己受容の仕方がわからず、どうしても自分を責めてしまう。貢献と言われても、自分にできることなんて何もないと感じる。そんな風に悩んでしまうこともあるでしょう。
カウンセリングは、あなたが「ありのままの自分」だと思い込んでいる、不便なライフスタイルの正体を一緒に見つめ直し、その思い込みから自由になるお手伝いをする場所です。そして、「自己受容」を土台に、「他者貢献」という、新しい生き方を始めるための具体的な練習を、伴走者としてサポートさせていただきます。
初回カウンセリング（オンライン）はこちらからお申し込みいただけます。
お会いできるのを楽しみにしています。
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