日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです! 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
「トラウマは存在しない」アドラーの“目的論”があなたの過去を救う。
「あの時の経験があったから、今の私はこうなんだ」 「過去のあの出来事がなければ、もっと違う人生だったかもしれない」
そうやって、過去の出来事に囚われ、ため息をついてしまうことはありませんか。
さて、今回のタイトルを見て、ドキッとした方、あるいは少し腹が立った方もいるかもしれません。「トラウマは存在しない」――。なんて挑発的で、無責任な言葉だろう、と。
実際にあった辛い経験や、今も残る心の痛みを否定するなんて、とんでもない。そう感じるのは当然です。
ですが、もしこの言葉が、あなたの過去の痛みを否定するためではなく、むしろ過去の呪縛からあなたを解き放ち、未来へ踏み出すための、最も力強いエールだとしたらどうでしょうか。今日は、アドラー心理学の根幹をなす「目的論」という、少し変わった、けれど希望に満ちた視点をご紹介します。
あなたの「今」は、過去の「原因」で決まる?
私たちはつい、物事を「原因論」で考えがちです。 「過去に親から厳しく育てられた(原因)から、今、人の顔色をうかがってしまう(結果)」 「学生時代にいじめられた(原因)から、今、人と深く関わるのが怖い(結果)」
このように、今の状態には必ず過去の原因がある、という考え方です。これは一見、とても分かりやすく、納得しやすいかもしれません。しかし、この考え方には限界があります。
なぜなら、過去は変えられないからです。「過去のせいだ」と考えた瞬間、私たちは「だから今の自分はこうでも仕方がない」という諦めの沼にはまり、未来へ向かうエネルギーを失ってしまいます。
それに、もし原因がすべてを決めるなら、同じ経験をした人は皆、同じ結果になるはずです。でも現実は違いますよね。同じように厳しい家庭で育っても、一方は臆病になり、もう一方はそれをバネにたくましくなる。この違いは、一体どこから来るのでしょうか。
今の「目的」のために、過去を“使っている”
ここで、アドラー心理学の「目的論」という大転換が起こります。 アドラーはこう考えます。「人は過去の原因によって動かされるのではなく、現在の目的に向かって動くのだ」と。
先ほどの例で言えば、こうなります。 「『人と深く関わって、これ以上傷つくのを避けたい』という“目的”のために、『学生時代にいじめられた経験』を理由として“持ち出してきている”」
どうでしょうか。矢印の向きが、過去から現在ではなく、現在から過去へと逆転しているのがわかるでしょうか。
「トラウマ」とされるような辛い経験も、目的論では同じように考えます。その経験が辛かったことは、紛れもない事実です。しかし、その辛い経験を理由に「だから私は対人関係が苦手なんです」とすることで、「人と関わらなくて済む」「傷つく可能性のある挑戦を回避する」という、現在の目的を達成するための便利な言い訳として、無意識のうちに使ってしまっている可能性があるのです。
大切なことなので繰り返しますが、これはあなたの痛みを軽んじたり、否定したりするものでは決してありません。ただ、その辛い過去に「今の私を決定づけるほどの力」を与え続けているのは、他の誰でもない「今の自分自身」かもしれない、という可能性を示しているのです。
過去の意味を「選び直す」勇気
もし、過去の出来事にどんな意味を与えるかを決めているのが「今の自分」なのだとしたら、そこには大きな希望が生まれます。
過去の出来事そのものは変えられません。しかし、その出来事への“意味づけ”は、今この瞬間から、あなたの意志で選び直すことができるのです。
例えば、「親に厳しく育てられた」という事実に、「だから私は自信がない」という意味を与える代わりに、「だから私は人の痛みに敏感になれた」「だから私は物事を慎重に進める強みがある」という、まったく新しい意味を与えることも可能です。
意味づけが変われば、見える世界が変わり、未来の行動も変わります。過去は、あなたを縛り付ける重い鎖ではなく、あなただけの人生を豊かにするための「資源」や「教訓」に姿を変えるのです。
これこそが、「トラウマは存在しない」という言葉の真意です。どんなに辛い過去であっても、それが今のあなたを一方的に決定づけることはない。あなたの人生の舵を握っているのは、いつでも「今、ここ」にいるあなた自身なのです。
あなたの人生の主人公は、あなただ
「トラウマは存在しない」――。 この言葉は、冷たく突き放す刃ではなく、「あなたの人生の主導権は、過去のせいでも、誰かのせいでもなく、いつだってあなたの手の中にあるんですよ」という、アドラーからの最大限の信頼と勇気づけのメッセージです。
過去に感謝する必要はありません。無理に許す必要もありません。 ただ、過去が今のあなたを決定しているという考えを少しだけ脇に置いて、「これから、どうしたい?」と、未来の自分に問いかけてみませんか。
あなたの物語の脚本家は、いつだってあなた自身なのですから。
もし、過去への意味づけを変えるのが一人では難しいと感じたり、自分の「目的」が何なのかを深く知りたいと思ったりした時は、ぜひ一度お話しに来てください。あなたの物語の新しいページを、一緒にめくっていくお手伝いができれば幸いです。
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お会いできるのを楽しみにしています。
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