日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです! 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
「大変だね」と言われたい、私たちの“不幸自慢”
「ああ、忙しくて、もう3日もまともに寝てないよ…」 目の下に濃いクマを作りながら、どこか誇らしげに、そう語る同僚。
「うちの子、本当に手がかかって、大変で…」 そう言いながら、子育ての苦労話を、延々と、そして少しだけ嬉しそうに続ける、友人。
「こんなにたくさんの仕事を抱えちゃって、もうパンクしそうだよ」 悲鳴を上げながらも、なぜかその仕事を、決して他人に任せようとはしない、上司。
私たちは、「悩み」や「苦労」を語る時、純粋な苦痛を訴えているだけではないことがあります。 その言葉の裏側には、「大変だね」「すごいね」「あなただから、できるんだよ」という、他者からの同情、賞賛、そして特別な承認を、密かに求めている気持ちが隠れてはいないでしょうか。 それは、もはや「相談」というよりも、一種の「不幸自慢」や「苦労自慢」と呼ぶべき、コミュニケーションなのかもしれません。
なぜ、私たちは「悩み」を“自慢”するのか?
なぜ、苦しいはずの「悩み」が、自慢の種にすり替わってしまうのでしょうか。 アドラー心理学の視点から見ると、その行動には、いくつかの“目的”が隠されています。
1.「特別な自分」でいたい、という優越性の追求 「人並み以上の、こんなに困難な課題に取り組んでいる自分は、すごいだろう」という、歪んだ形での「優越性の追求」です。平凡な課題ではなく、より困難な悩みを抱えていることで、自分を「その他大勢」とは違う、「特別な存在」だと感じようとしているのです。
2.「貢献感」を、間接的にアピールしたい 「自分は、これだけの困難を引き受け、この共同体(家族や会社)のために、多大な貢献をしているのだ」ということを、遠回しにアピールしているのです。直接「ありがとうと言ってほしい」と言う代わりに、「こんなに大変だ」と語ることで、相手から感謝や承認を引き出そうとしています。
3.人生の課題から“逃げる”ための、言い訳 「こんなに大変な悩みを抱えているのだから、他のこと(例えば、夫婦関係の改善や、新しい挑戦など)ができなくても、仕方がないだろう」という、人生の他のタスクから逃避するための、強力な言い訳として、「悩み」を利用しているのです。
「悩むこと」と「解決すること」は、別の課題です
ここで、アドラー心理学からの、非常に重要なメッセージをお伝えします。 それは、「悩むこと」自体は、何一つ生産的な行為ではない、ということです。
悩んでいる間、私たちは一歩も前に進んでいません。 悩みを語り、他者からの同情や承認を得ることに満足してしまうと、「では、その悩みを、具体的にどう解決するか?」という、本来取り組むべき、建設的な課題から、永遠に目をそらし続けることになってしまいます。 「悩みを自慢する」という行為は、解決のための行動を起こさない自分を、正当化するための“煙幕”のようなものなのです。
“不幸自慢”のステージから、降りる方法
では、どうすれば、この不健全なループから抜け出せるのでしょうか。
ステップ1:自分が「悩みを語る目的」に、気づく 次にあなたが誰かに悩みを語りたくなったら、一度立ち止まってみてください。そして、「私は今、この人に、本当に解決策を求めているのだろうか? それとも、ただ『大変だね』『すごいね』と言ってもらって、気持ちよくなりたいだけなのだろうか?」と、自分の本当の「目的」を、正直に自問してみるのです。
ステップ2:悩みを「形容詞」から「動詞」に変える 「忙しくて、大変だ」「人間関係が、辛い」という、自分の状態を描写する「形容詞」で語るのをやめましょう。代わりに、「では、この状況を改善するために、“何をすることができるか?”」という、具体的な「動詞」で考える癖をつけるのです。
ステップ3:「貢献」を、直接的な行動で示す 「大変だ」アピールで、間接的に貢献感を得ようとするのをやめます。代わりに、たとえ小さくてもいいから、誰かの役に立つ、具体的な行動を起こしてみましょう。そして、相手からの直接的な「ありがとう」という、純粋な勇気づけを受け取るのです。
悩みを語り、同情を引くことで得られる、束の間の、そして少しだけ不健康な優越感。 それよりも、具体的な貢献を通して得られる、静かで、しかし確かな充実感の方が、よほどあなたの心を、本当の意味で満たしてくれるはずです。
あなたは、悲劇のヒロインを演じる必要はありません。 あなたは、自分の人生の課題を、自らの力で解決していくことができる、力強い主人公なのですから。
ご自身の「悩み語り」が、実は「自慢」だったと気づいて、少しショックを受けているかもしれません。長年の癖で、つい苦労話をして、同情を買おうとしてしまう、ということもあるでしょう。 もし、あなたがその不健全なパターンから抜け出し、具体的な課題解決に取り組むための勇気を持ちたいと願うなら、一度お話しに来ませんか。
カウンセリングでは、あなたがなぜ「悩む」ことで自分の価値を証明しようとしてしまうのか、その根深いライフスタイルを安全な空間で一緒に探求します。そして、不幸自慢のステージから降り、ご自身の人生の主人公として、力強く歩き出すためのサポートをさせていただきます。
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お会いできるのを楽しみにしています。
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