日本アドラー心理学振興会 認定心理療法士、認定心理カウンセラーの田中詠二こと、えいさんです! 子育て、仕事、人間関係の悩みに、心理学の観点から解決のヒントをお届けします。
その“献身”は、本当に愛ですか?
生活能力のないパートナーの身の回りの世話を、甲斐甲斐しく焼き、「私がいないと、この人は本当にダメなんだから…」と、ため息まじりの満足感を得る。 悩みを抱える友人の話を、何時間でも親身に聞き、まるで自分のことのように、その問題解決のために奔走する。 何度言っても言うことを聞かない子どもの要求を、結局は「仕方ないわね」と、すべて叶えてしまう。
「私が必要とされている」というこの感覚は、ある種の自己肯定感や、確かな生きがいのように感じられるかもしれません。 しかし、その献身の裏側で、相手がいつまでも自立しないことに、どこかで不満や、尽きることのない疲弊感を感じてはいませんか。 その、一見すると美しい自己犠牲に見える関係性が、実は「共依存」という名の、お互いを不自由にする、見えない鎖で結ばれているとしたら、どうでしょうか。
「役に立つ私」でいるための、無意識の戦略
なぜ、私たちは「私がいなきゃ、この人はダメ」という関係性に、囚われてしまうのでしょうか。 アドラー心理学の「目的論」の視点から見ると、その献身的な行動の裏には、あなた自身の、こんな“目的”が隠れているのかもしれません。
- 「貢献感」を手軽に得るため 心のどこかで、「ありのままの自分には、価値がない」という劣等感を抱えている。そのため、「誰かの役に立つこと」を通してしか、自分の存在価値を確認できない。そして、自分に依存してくれる無力な相手の世話を焼くことは、最も手っ取り早く、そして確実に「自分は必要とされている」という貢献感を得られる方法なのです。
- 相手を、自分の支配下に置くため 「助ける側」と「助けられる側」という、明確な「縦の関係」を築くことで、相手に対する優位性を確保し、関係の主導権を握ることができます。相手が自立してしまうと、その支配的な立場が失われてしまうことを、無意識のうちに恐れているのです。
それは「勇気づけ」ではなく、「勇気くじき」です
ここで、あなたのその献身的な行動が、相手にどのような影響を与えているか、という視点に立ってみましょう。 あなたが「良かれと思って」やっているその過剰な世話や手助けは、実は、相手に対して「あなたには、自分一人で課題を解決する能力がない、無力な人間だ」という、強烈なメッセージを、毎日送り続けていることと同じなのです。
これは、アドラー心理学でいう、最も避けるべき関わり方である「勇気くじき」そのものです。 あなたは、愛という名の支配で、相手の自立する機会を奪い、「無力なままでいなさい」と、無意識のうちに呪いをかけているのかもしれません。 これは、相手が引き受けるべき「人生の課題」を、あなたが肩代わりしてしまっている、「課題の分離」ができていない状態。その結果、お互いがその不健全な役割に依存し、共に成長の機会を失っていくのです。
「見捨てる」のではなく、「信じる」勇気を持つ
では、どうすればこの共依存の鎖を断ち切ることができるのでしょうか。
ステップ1:まず、「自分の価値」を、相手への世話から切り離す 何よりも先に、「私は、この人の世話をしなくても、十分に価値がある」という事実を、あなた自身が受け入れることです。あなたの価値は、誰かに必要とされるかどうかで決まるものではありません。この「自己受容」が、すべての始まりです。
ステップ2:相手の課題を、本人に“手渡す” これまであなたが肩代わりしてきた課題を、「これは、あなたの課題だよね。あなたなら、どうする?」と、勇気を持って本人に手渡してみましょう。相手が困っていても、すぐに手を出さない。その沈黙の時間を、耐えるのです。
ステップ3:「見捨てる」のではなく、「信じる」ことに、エネルギーを注ぐ 課題を手渡すことは、決して相手を冷たく見捨てることではありません。 それは、「あなたには、自分の力で、その課題を乗り越える能力があると、私は信じている」という、最高の信頼と尊敬のメッセージなのです。 相手が助けを求めてきた時には、答えを与えるのではなく、「一緒に考えよう」と、あくまで対等な「横の関係」で、本人が解決策を見つけるのをサポートする。
本当の愛や優しさとは、相手を無力な存在として甘やかし、その課題を奪うことではありません。 それは、相手の力を心から信じ、その人が自らの足で、自分の人生を歩んでいくのを、尊敬と信頼をもって見守ること。 その、本当の意味での「勇気」を持てた時、あなたと相手は、支配と依存ではない、本物の絆で結ばれるはずです。
長年続けてきた共依存的な関係から抜け出すのは、大きな恐怖や罪悪感を伴います。「相手を見捨てるようで、どうしても課題を手渡せない」という方もいるでしょう。 もし、あなたがその苦しい関係性から抜け出し、お互いを尊重し、共に成長していける健全な関係を築きたいと願うなら、一度お話しに来ませんか。
カウンセリングでは、あなたがなぜ「私がいなきゃダメ」という思い込みを手放せないのか、そのライフスタイルを安全な空間で一緒に探求します。そして、「課題の分離」を身につけ、自己犠牲ではない、本当の意味での「優しさ」と「強さ」を取り戻すお手伝いをさせていただきます。
初回カウンセリング(オンライン)はこちらからお申し込みいただけます。

お会いできるのを楽しみにしています。
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